.okaun. .junpen. no'u la .telesan. / OKAŬ Ĵunpe aŭ Telesa / OKAU Junpe eller Telesa / 大川純平 テレサ

『週刊金曜日』の田中たなか優子ゆうこさんの「渦巻く『怒り』と感情の大河」から引用いんよう。

キャリーケースが倒れかかっただけで心臓が飛び出るほどの思いをし、その子が無事だとわかって涙が出る。たぶん誰にでもある経験だが、キャリーケースがビルほどの大きさになり、その持ち手が遺伝子まで破壊するとなると、気づかないふりをする。小さな過ちを責め、巨悪は見ない。

伝わらない「正しさ」

しかし、現代社会において「巨悪」とは何か？東電は巨悪か、官僚は巨悪か、原子力発電所は巨悪か？そう問うのは、つい先日、ある学生のレポートを読んで考え込んでしまったからである。

そこにはこうあった。「社会について、特に権力批判を学ぶなかで見えてくるのは、権力者の悪意よりも、人間的な欲望や怠慢の帰結である。その強大さや絶対性よりも、むしろ権力の誤謬ごびゅう性である」と。その上で彼は言う。「権力を悪として敵対することは空虚なものとなる」。善悪は相対化されてしまうからだ。原発は権力関係であり、われわれ自身が権力の一部であると分析する。その観点で言うと、ウォール・ストリートを占拠する九九％も世界全体の中では一％の恵まれた人たちの側にいるのだ、と。こうなると「敵」と名指す相手はいなくなり、デモは無効となる。「闘争モデルではなく」自己を変えることや、関係を変えることが権力関係を解体し組み替えるのである、と彼は言う。つまりは闘っても無駄だ、というのがレポートの結論であった。

優秀なレポートだった。論理的にも正しい。しかし何かがヘンだ。ヘンだというのは、間違っているという意味ではない。多分正しい。他の人と比べてヘンだという意味でもない。この考えかたは今やごく一般的であり、ヘンなどころか主流を占めているのである。

では何がヘンなのか。ひと言で言うと、感情が無い、のである。何も伝わってこないのだ。「闘わない理由」を書いているだけであり、身体の中枢からわき上がってくる怒りや、子どもたちのもろさを感じ取って胸が締めつけられるなどの、「感情」が沸き起こった形跡が無い。

（中略）

人々は、あふれかえるほどのさまざまな感情を味わった――と思っていた。しかしもしかしたら、内山（引用者いんようしゃ注ちゅう。内山うちやま節たかし）の言う「身体抜きの知」だけで生きている人たちがいるのかもしれない。学生の言う権力の誤謬とは決して人間的な誤謬なのではなく、空っぽの誤謬なのかもしれない。何も考えないのではなく、「何も感じない」ところから発する誤謬があるとしたら……。なんと恐ろしい誤謬なのだろうか。それを「巨悪」と呼ぶのでなくて、何を巨悪というのだろう。

（「編集委員による「311後」考」。『週刊金曜日』。2011．にせんじゅういちねん12.じゅうにがつ23日にじゅうさんにち号ごう。22-23ページ。）