桝田啓三郎さん
責任編集の『中公バックス世界の名著51 キルケゴール』の「年譜」の593ページにある、
一八五五年五月十六日出版の『これだけは言っておかねばならない、だからここで言わせてもらう S. キルケゴール著』とはたぶんこれのことだろう。(
http://sks.dk/DSS/txt.xml)その
題名の
訳は
借りて、
訳してみる。
これだけは言っておかねばならない、だからここで言わせてもらう
一八五四年十二月
これは言わなければならない。私は誰にも、同じことをするように義務づけたりはしない。その権限は私にはない。しかしこれを聞いた人には責任がある。神の前でこれについて弁明できると思っている人は、自分の責任で行動するがいい。ある人は私が言うとおりにするかもしれないし、ある人は、神の御心にかなうこととして、神への崇拝を示そうと、私にたいして叫ぶかもしれない。それらのいずれも私の関心ごとではない。私の関心ごとは、これが言わなければならないということだけだ。
これは言っておかねばならない、だから言わせてもらう。
あなたがどんな人であろうと関係ない。そしてあなたがどんな人生を歩んでいようとも関係ない。あなたが礼拝に参加する人だとしよう。いまのような公認礼拝、すなわち、新約聖書のキリスト教であるといういまのような公認礼拝に参加するのをやめれば、ひとつの、おおきい責めがいつでもちいさくなる。新約聖書のキリスト教でないものを新約聖書のキリスト教であると呼ぶことで神を笑いものにすることにあなたは参加していないのだから。
**
これで話は終わりだ。神よ、限りなき愛よ、御心のままになりますように。事情をよくわかってはいるものの、眉唾の賢さで、できるなら何でもないふりをするのがいちばん賢いと、そう思われようも、私はもう話した。そして既存のものはもう失っているかもしれない。なぜなら、黙っていることでも失うことはありえるからだ。とくに、こういう関係であるならば。すなわち、私の知っていることを、程度の差はあれ、はっきりと知っている人は少なくない。ただ、誰も言いたがらない。こうであるときには、一人が必要なのだ。一人の犠牲、それを言う一人が。そして、言わせてもらった。
**
一八五五年 五月
そうなのだ。公認礼拝は、新約聖書のキリスト教であるというならば、キリスト教的に偽りであり、うそなのだ。
しかし普通のキリスト教徒であるあなたは、だいたいにおいて、もちろん何もわからない。あなたはまったくもって誠実で、すべてはきちんとしていて、新約聖書のキリスト教だという思い込みにあるお人好しだ。このうそは根が深いので、すべてはきちんとしていて、新約聖書のキリスト教だという幻想のなかでまったくもって誠実に生きている牧師までいるだろう。このうそは何世紀ものあいだみられた偽りであるから、それとともにキリスト教は少しずつ、新約聖書の中のキリスト教とはほとんど正反対のものになってしまったのである。
だから繰り返す。これは言わなければならない。あなたが礼拝に参加する人だとして、いまのような公式礼拝に参加するのをやめれば、ひとつの、おおきい責めがいつでもちいさくなる。神を笑いものにすることにあなたは参加していないのだから。
永遠の勘定に出会う道は、危険で満ちている。こう、同じことを「牧師」もある程度は言う。しかしその牧師が話し、警告するのを忘れている危険がひとつある。国家と牧師による、これがキリスト教だというとてつもない錯覚にとらわれる危険、そしてとらわれている危険だ。だから目を覚ましなさい。罪でしかないものに参加して、永遠を確保するつもりになどならないように、気をつけなさい。目を覚まして、前を見なさい。あなたがどんな人であろうと、ここで話している者は金を稼ぐために話しているのではないことはわかるはずだ。むしろ金を失っている。名誉や名声のためでもないこともわかるはずだ。その反対のものに自ら身をさらしている。そうであるから、このこともわかるだろう。これは、気をつけなくてはならないということだと。
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